獣医学総合情報誌mVmmVm 2016年3月号 No.160 「特集みんなのワクチン」が刊行されました。
46ページに及ぶ特集として、犬猫用のワクチンが取り上げられることは、筆者の知る限り、初めてのことだと思います。
最新のWSAVAガイドラインに則ったワクチネーション(ワクチン接種)のガイドラインの紹介をはじめ、犬の飼い主2,667名にインターネット調査した「飼い主意識調査」の結果、「動物看護師白熱教室」(VnER)で取り組まれたワクチンセミナーの試み、犬よりも来院頻度が低いが感染機会は低いとはいえない猫に対するワクチン接種の重要性、すでにWSAVAガイドラインに則ったワクチン接種の指導を行っている動物病院の事例など、幅広い観点から、犬猫用のワクチン接種について論じられています。
- 特集にあたって 長谷川篤彦(東京大学 名誉教授)
- 日本の犬猫のワクチン接種の現状 氏政雄揮(伴侶動物ワクチン懇話会 事務局)
- WSAVAワクチネーションガイドライン 2015 辻本 元(東京大学 教授)
- 犬の飼い主意識調査からみる犬ワクチン接種率向上のポイント 村瀬正典(伴侶動物ワクチン懇話会)
- ワクチン接種における動物看護師の役割について 牛草貴博(関内どうぶつクリニック)、野呂義友(プリモ動物病院練馬)
- 猫が健康で長生きするための第一歩 坂田義美(伴侶動物ワクチン懇話会)
- 当院で実施したワクチンに関するお知らせ 藤井聖久(くすの木動物病院)
- 臨床獣医師としてワクチン接種をどのように行うべきか 栗田吾郎(栗田動物病院)
出版:株式会社ファームプレス
本体価格3,330円+税
ご注文は、こちらから http://www.pp-mvm.com/books/contents/65
mVm2016年3月号特集「みんなのワクチン」
「『犬と猫の感染症調査』を行うに至った経緯」で述べました通り、日本では、定期的な全国規模での感染症の疫学調査が行われておらず、獣医師は個々の動物病院における経験に頼るため、獣医師自身が感染症予防の重要性を意識する機会が限定され、飼い主に積極的なワクチン接種を勧めるための説得材料がないと推察されます。
そこで、当懇話会の顧問である長谷川篤彦先生のご指導の下、全国の獣医師の先生方に、それぞれの動物病院での過去2年間の感染症の発生状況について回顧的調査を行いました。その結果、短期間に全国600名の獣医師から回答を得ることができました。
この結果は、それぞれの動物病院で「疑いのある症例を診断した」および「抗原・抗体・PCR検査陽性などで確定診断した」の合算です。
今回は、初めての調査であるため、まだ全ての都道府県から回答が得られているわけではなく、またそれぞれの都道府県でも回答数が少ない場合もございます。1病院中1病院の診断があったことで、発生率100%と記載することに、当伴侶動物ワクチン懇話会においても懸念がないわけではございませんが、今後より多くの動物病院がこの調査に加わって下さることにより、さらに精度の高い疫学調査結果を、全国の皆さまにご提供できるものと拝察いたします。何卒ご理解と今後のご協力をお願い申し上げます。
犬猫感染症(全国)発生状況
以下の図はクリックすると拡大して表示されます。右クリックで保存することができます。
猫感染症(北海道・東北)県別発生状況
犬感染症(関東)都県別発生状況
猫感染症(関東)都県別発生状況
犬感染症(北陸・中部)県別発生状況
猫感染症(北陸・中部)県別発生状況
犬感染症(関西)府県別感染症
猫感染症(関西)府県別発生状況
犬感染症(中国・四国)県別発生状況
猫感染症(中国・四国)県別発生状況
犬感染症(九州・沖縄)県別発生状況
猫感染症(九州・沖縄)県別発生状況
「犬と猫の感染症調査」を行うに至った経緯
日本では、定期的な全国規模での感染症の疫学調査が行われておらず、獣医師は個々の動物病院における経験に頼るため、獣医師自身が感染症予防の重要性を意識する機会が限定され、飼い主に積極的なワクチン接種を勧めるための説得材料がないと推察されます。ですから、ワクチン接種が重要だと身をもって知った獣医師は、積極的に接種を勧めますが、そのような根拠を持たない獣医師との間には大きな温度差が生じる状況に陥ったのだと思われます。
そこで、当懇話会の顧問である長谷川篤彦先生のご指導の下、全国の獣医師の先生方に、それぞれの動物病院での過去2年間の感染症の発生状況について回顧的調査を行いました。その結果、短期間に全国600名の獣医師から回答を得ることができました。
各地域の集計結果については、クリックすると各地域にジャンプするPDF版がダウンロードできます(9.3MBあります)。
調査方法:ファームプレス株式会社の刊行物案内と同送される調査用紙をフリーダイヤルFAXにて回答
回答内容:以下の感染症(狂犬病を除く)について、過去2年間に「疑いのある症例を診断した」あるいは(抗原・抗体・PCR検査陽性などで)「確定診断した」ことがある場合にチェックし、どちらもない場合は空欄のまま、いずれも診断したことがない場合も空欄で回答する。
犬:犬パルボウイルス感染症
犬ジステンパーウイルス感染症
犬伝染性肝炎
犬アデノII型感染症
犬パラインフルエンザウイルス感染症
猫:猫ウイルス性鼻気管炎
猫カリシウイルス感染症
猫汎白血球減少症 |
その結果、犬では、「疑いのある症例を診断した」および「抗原・抗体・PCR検査陽性などで確定診断した」の合算で、調査病院の56.8%で過去2年間に何らかの感染症診断の経験がありました。つまり、それらの感染症の発生があったことを裏付けていると考えられます。
感染症ごとでは、犬パルボウイルス感染症(36.2%)、犬ジステンパーウイルス感染症(12.2%)、犬伝染性肝炎(5.5%)、犬アデノウイルスII型感染症(17.2%)、犬パラインフルエンザウイルス感染症(35.3%)という発生率でした。
犬伝染性肝炎は低いですが、犬ジステンパーウイルス感染症と犬アデノウイルスII型感染症が10%を超え、犬パルボウイルス感染症と犬パラインフルエンザ感染症がともに35%を超えていることに注目すべきだと考えます。
猫では、さらに顕著で「疑いのある症例を診断した」および「抗原・抗体・PCR検査陽性などで確定診断した」の合算で、調査病院の96.5%で過去2年間に何らかの感染症診断の経験がありました。つまり、犬と同様、猫でもそれらの感染症の発生があったことを裏付けています。感染症ごとでは、猫ウイルス性鼻気管炎(95.7%)、猫カリシウイルス感染症(83.0%)、猫汎白血球減少症(36.8%)という発生率でした。
(獣医学総合情報誌mVm 2016年3月号No.160 特集「みんなのワクチン」(日本の犬猫のワクチン接種の現状 氏政雄揮)より抜粋)
2016年1月
臨床獣医師各位
伴侶動物ワクチン懇話会
東京大学名誉教授 長谷川 篤彦
『犬と猫の感染症調査』ご協力の御礼
平素は格別なるご高配を賜り、厚く御礼を申し上げます。 先生方におかれましては益々御健勝のこととお慶び申し上げます。
さて昨年、「伴侶動物ワクチン懇話会」と共に実施させていただきました、 『犬と猫の感染症調査』にご協力いただき、誠にありがとうございました。
おかげさまで600軒の動物病院にご回答いただき、臨床現場における感染症の診断状況を 把握することができました。
取り急ぎポスター加工した全国のデータをご提供させて頂きますので何卒ご高覧ください。 今後ともご協力の程、よろしくお願いいたします。
まずはご報告かたがた御礼まで申し上げます。
敬具
【お問合せ】伴侶動物ワクチン懇話会事務局
株式会社ブイエムスリー
いぬねこワクチンのポスターが完成しました。3月の初旬から、全国の動物病院に掲載される予定です。
「いぬねこワクチン」のウェブサイトを公開しました。少しでもお役に立つ情報を発信したいと存じます。