「犬と猫の感染症調査」を行うに至った経緯
日本では、定期的な全国規模での感染症の疫学調査が行われておらず、獣医師は個々の動物病院における経験に頼るため、獣医師自身が感染症予防の重要性を意識する機会が限定され、飼い主に積極的なワクチン接種を勧めるための説得材料がないと推察されます。ですから、ワクチン接種が重要だと身をもって知った獣医師は、積極的に接種を勧めますが、そのような根拠を持たない獣医師との間には大きな温度差が生じる状況に陥ったのだと思われます。
そこで、当懇話会の顧問である長谷川篤彦先生のご指導の下、全国の獣医師の先生方に、それぞれの動物病院での過去2年間の感染症の発生状況について回顧的調査を行いました。その結果、短期間に全国600名の獣医師から回答を得ることができました。
各地域の集計結果については、クリックすると各地域にジャンプするPDF版がダウンロードできます(9.3MBあります)。
調査方法:ファームプレス株式会社の刊行物案内と同送される調査用紙をフリーダイヤルFAXにて回答 回答内容:以下の感染症(狂犬病を除く)について、過去2年間に「疑いのある症例を診断した」あるいは(抗原・抗体・PCR検査陽性などで)「確定診断した」ことがある場合にチェックし、どちらもない場合は空欄のまま、いずれも診断したことがない場合も空欄で回答する。 犬:犬パルボウイルス感染症 犬ジステンパーウイルス感染症 犬伝染性肝炎 犬アデノII型感染症 犬パラインフルエンザウイルス感染症 猫:猫ウイルス性鼻気管炎 猫カリシウイルス感染症 猫汎白血球減少症 |
その結果、犬では、「疑いのある症例を診断した」および「抗原・抗体・PCR検査陽性などで確定診断した」の合算で、調査病院の56.8%で過去2年間に何らかの感染症診断の経験がありました。つまり、それらの感染症の発生があったことを裏付けていると考えられます。
感染症ごとでは、犬パルボウイルス感染症(36.2%)、犬ジステンパーウイルス感染症(12.2%)、犬伝染性肝炎(5.5%)、犬アデノウイルスII型感染症(17.2%)、犬パラインフルエンザウイルス感染症(35.3%)という発生率でした。
犬伝染性肝炎は低いですが、犬ジステンパーウイルス感染症と犬アデノウイルスII型感染症が10%を超え、犬パルボウイルス感染症と犬パラインフルエンザ感染症がともに35%を超えていることに注目すべきだと考えます。
猫では、さらに顕著で「疑いのある症例を診断した」および「抗原・抗体・PCR検査陽性などで確定診断した」の合算で、調査病院の96.5%で過去2年間に何らかの感染症診断の経験がありました。つまり、犬と同様、猫でもそれらの感染症の発生があったことを裏付けています。感染症ごとでは、猫ウイルス性鼻気管炎(95.7%)、猫カリシウイルス感染症(83.0%)、猫汎白血球減少症(36.8%)という発生率でした。
(獣医学総合情報誌mVm 2016年3月号No.160 特集「みんなのワクチン」(日本の犬猫のワクチン接種の現状 氏政雄揮)より抜粋)